「老年生活には2つの選択肢があります。寿命が短く、病気や障害に苦しむか、私の百歳の友人たちが示してくれたように、可能な限り長く、最小限の辛い時間を過ごすかです。選択は大部分が私たち自身にかかっています」と、ダン・ブトナー氏は言います。

63歳のダン・ブトナー（Dan Buettner）氏は、多くの賞を受賞したジャーナリスト、プロデューサー、ベストセラー作家です。彼は世界の五つの長寿地域を発見し、それらを「ブルーゾーン」と名付けました。この地域には、日本の沖縄、イタリアのサルデーニャ、コスタリカのニコヤ、ギリシャのイカリア島、アメリカのカリフォルニア州ロマリンダが含まれます。

ブトナー氏は、健康と長寿に関する多くのことが迷信や誤りであると考えています。「食事プランやジムの会員権、高価なサプリメントへの執着は、ブルーゾーンの生活方式には全く存在しない」と彼は言います。

最近、ブトナー氏はNetflixの人気シリーズ『活到100歳』で、観客を5つのブルーゾーンに案内し、より健康で長寿で意義のある生活を送る方法を紹介し、大きな注目を集めました。

ブトナー氏は、これら5つのブルーゾーンの住民に共通する9つの特徴を発見しました。これを「9つの力」（Power 9）と呼び、老化を遅らせるのに役立つと信じています。たとえブルーゾーンに住んでいなくても、これらの方法を取り入れることで、より健康に100歳まで生きる可能性が高まるかもしれません。  

賢い食事

1. 植物を中心に

ブルーゾーンの食事は植物を中心にしており、ビタミンやタンパク質が豊富な豆類、野菜、ナッツ類、少量の肉類を含んでいます。

豆類、特にソラマメ、黒豆、大豆、レンズ豆は、多くの百歳老人の食事の基盤となっています。彼らは平均して月に5回だけ肉を食べ、多くの場合は豚肉で、1回に3～4オンス（約85～113グラム）、つまりトランプのカード1枚程度の量を食べます。

現代の加工食品と比べて、原始的な植物性食事は人体に大きな利益をもたらします。2019年に『Translational Psychiatry（転化精神病学）』に掲載されたランダム化臨床試験の系統的レビューによれば、従来の食事と比較して、短期間から中期間（24か月）の植物性食事は、体重管理やエネルギー代謝に有益であり、腸内微生物をより健康にし、全身性の炎症を改善する効果があることが十分に実験で証明されています。これは健康な人、肥満者、2型糖尿病患者においても同様の利益が見られました。

植物ベースの食事、特に豆類には、血糖値をコントロールし、体脂肪を低下させるレジスタントスターチが豊富に含まれている (shige hattori / PIXTA)

2. 腹八分目の食事

ブルーゾーンの高齢者は、食事を適度に摂ることを重視しています。彼らは炭水化物の制限や流行のダイエット法をあまり試みませんが、常に腹八分目で食事を終えます。また、午後や夕方には最も少ない食事を摂り、その後は一切食べ物を摂らないことが多いです。

研究によると、腹八分目の食事は正常な代謝を維持し、さまざまな病気を予防するのに役立つことが証明されています。米国立老化研究所（NIA）が支援する218名の成人を対象とした先駆的な臨床試験では、対照群と比較して、カロリー制限群の参加者は、糖尿病や心臓病に関連するリスク因子（血圧やコレステロールレベルなど）を低減させました。また、いくつかの炎症因子や甲状腺ホルモンの減少も見られ、これらの指標の低下は長寿や老年病の減少と関連していることが示唆されています。

3. 適度な飲酒

ブルーゾーンでは、宗教的な理由で禁酒しているロマリンダの住民を除き、他の地域の住民は適度かつ規則的に飲酒しています。特に、社交の場では毎日1～2杯のワインを飲むことが一般的です。ただし、一週間分の飲酒量を一日にまとめて飲むことは避けるべきです。

研究によると、適度な赤ワインの飲酒は健康に良い影響を与えることがわかっています。2015年に『内科年鑑』（Annals of Internal Medicine）に発表された、224名の2型糖尿病患者を対象とした長期のランダム化対照試験では、適量のワイン、特に赤ワインを摂取することは、糖尿病が良好にコントロールされている患者において安全であり、心血管代謝関連疾患の予防に役立つことが示されています。  

心の平和と充実

4. 信仰を持つこと

信仰はブルーゾーンのコミュニティの中心にあります。インタビューを受けた263人の百歳老人のうち、5人を除く全員が何らかの信仰コミュニティに属していました。宗派は特に重要ではないようです。

信仰を持つ人はより長生きするのでしょうか？2018年に『社会心理と人格科学』（Social Psychological and Personality Science）に発表された報告では、訃報を資料にして宗教信仰と寿命の関係を研究しました。

アイオワ州デモインの505人の中では、宗教信仰を持つ人は持たない人よりも9.45年長生きすることが分かりました。また、アメリカの42都市からの1096人のデータでは、宗教信仰を持つ人は持たない人よりも5.64年長生きすることが明らかになりました。

5. 生活目標を追求する

全てのブルーゾーンにおいて、人々は仕事だけでなく、人生に対する追求心を持っています。ブルーゾーンの人は生活の意味を表す言葉を持っており、沖縄の人々は「ikigai」、ニコヤの人々は「plan de vida」と呼びます。どちらも「朝、なぜ目覚めるのか」という意味です。

多くの文献は、強い生活目標感を持つことが心身の健康を改善し、全体的な生活の質を向上させることを示しています。2019年に『JAMAネットワークオープン』（JAMA Network）に発表された研究では、約7千人のアメリカの高齢者を対象に調査し、生活目標が欠如している人の死亡リスクは、最も強い生活目標を持つ人の2.43倍であり、心血管疾患による死亡リスクは2.66倍であることが明らかになりました。

ブルーゾーンに住む高齢者にも人生の目標がある。写真は車を運転する日本の高齢者（ペイレスイメージズ1 / PIXTA）

6. ストレスの緩和

ブルーゾーンの人々もストレスを感じることがあります。ストレスは慢性炎症を引き起こし、すべての加齢関連疾患に関与しています。世界で最も長寿の人々はストレスを和らげる方法を持っており、日常生活の中で定期的にリラクゼーション活動を行っています。例えば、祖先をまつる、祈る、昼寝をするなどです。  

他者とのつながり

7. 家族を優先する

ブルーゾーンの住民は家族を大切にし、安定した家庭構造を持っています。彼らは高齢の両親や祖父母を家に住まわせたり、近くに住まわせたりします。これにより、家庭内の子供の病気や死亡率が低下します。彼らは生涯の伴侶に忠実であり、子供たちと過ごす時間を大切にします。そのため、親が年老いたときは子供たちより、一層親を気遣います。

家族間のケアは心理的に重要な影響を与えます。2010年に『心理学と老化』（Psychology and Aging）が発表した老年夫婦に関する研究では、老年夫婦が結婚生活に満足していることが健康状態の悪化による幸福感の低下緩和が明らかになりました。他者との交流だけではその効果は見られません。

8. 有益な社交

世界で最も長寿の人々は、健康的な行動を持つ社交圏を選ぶか、そうした環境で生まれ育ちます。例えば、日本の沖縄では「模合（もあい）」と呼ばれるグループがあり、これは生涯にわたってお互いを信頼し合う5人の友人で構成される友情の輪です。

研究によれば、健康的または不健康な行動は伝染することが確認されています。例えば、喫煙、肥満、幸福感、さらには孤独感です。『ニューイングランド医学雑誌』の研究では、ある人が肥満になると、親友も肥満になるリスクが高まることが示されています。ある人の友人の一人が一定期間内に肥満になると、その人の肥満になるリスクが57%増加することがわかりました。

ブルーゾーンの高齢者は通常、わざわざフィットネス施設に行って運動する必要はなく、日常生活の中で自ら運動する。 写真は散歩中の高齢者（shimi / PIXTA）

自然而然な運動

9.日常的な運動

ブルーゾーンの高齢者は、通常、重い物を持ち上げたり、マラソンを走ったり、ジムに通ったりしません。彼らは身体活動を生活の一部に取り入れています。

彼らは交通手段を使うのではなく、どこへでも歩いて行きます。これにより、定期的な運動が可能になり、アウトドア活動を楽しむことができます。また、手作業を行う習慣があり、園芸、料理、掃除、その他の日常雑務に忙しいのです。これらの活動は、筋肉と脳を活発に保つだけでなく、達成感も得られます。

ウォーキングは高齢者にとって非常に適した運動です。2019年に『アメリカ医学会雑誌-内科医学』（JAMA Internal Medicine）に発表された研究によれば、女性の高齢者にとって、1日に4400歩を歩くことで死亡リスクの大幅な低下が示されています。

（翻訳編集　井田千景）